top of page
夕焼けの海

​年齢とともに変わる感謝
(内藤俊史・鷲巣奈保子、2020.8.4  最終更新日 2023.6.17)

 感謝の心は、年齢とともにどのように変わっていくのでしょうか、生涯のそれぞれの時期で、どのような意義をもつのでしょうか。

アンカー 3
サイトメニュー 
アンカー 8

年齢とともに変わる感謝

  私たちは、生涯を通して、人、社会、世界など、「他」との関わりのなかで生きています。感謝は、その関わり方を映し出す鏡といってもよいでしょう。他との関わりは、成長とともに広がり、化をします。人は、その都度生じる新たな課題、発達課題に取り組みます(Erikson, 1977,1980)。感謝の姿は、それぞれの時期における発達上の課題の下で、様々な姿を示します。

  次にあげる表1は、発達過程における感謝の概略です(Naito & Washizu,2019, p.81の表を簡略にしたもの)。

表1 発達の時期と感謝​の概略

--------------------------

[児童期まで ] 子どもどうしや大人とのやりとりのために、感謝の言葉や行動、そしてその背景にある感謝の概念(感謝の効用、決まりなど)を学びます。感謝は対人的な関係を深める傾向をもちます。

[青年期]  社会的認識は拡大され組織化します。社会的-歴史的世界のなかで自己は何ものなのか、どのような位置にあるのかを探究します。これまで感じてきた感謝は、より広い視野からその意義や適切性があらためて問われます。

[成人期・高齢期]

社会や組織とともに、世代のつながりにおける自己を考え、感謝はより抽象的な対象に広がります。また、人生を振り返りその意義を考えます。社会、世界、自然の歴史のなかに人生を位置づけ、あらためて感謝の対象やあり方を探ります。 

----------------------------

 ※ なお、発達や発達段階という枠組みで人間を理解するときに考慮しなければならないことがあります。それは、発達段階がいったん設定されると、すべての人々がたどらなければならない「規範的な」道筋として固定される恐れがあることです。発達段階は、むしろ、すべての人々の多様な発達を説明できるように修正されていくものです。 

アンカー 2

児童期まで 感謝」の習得

 (より詳しい文書 (PDF文書)) 

感謝の言葉や行為獲得 

 何かをもらった3―4歳の子どもに「ありがとうは?」といって、親が子どもに感謝の言葉を促している姿を見かけることがあります。日本の子どもたちの多くは、感謝を表すための言葉を早くから学び始めるようです。 

 幼児期の感謝の言葉についての研究が、アメリカ合衆国で行われています。 

 5 歳の子どもたちが親と一緒にいるときに、こんにちは、ありがとうなどの言葉を話すかどうかを実験室のなかで観察した研究が行われています(Grief and Gleason, 1980)。その結果、86%の子どもは、親がきっかけや手がかりを与えたときは感謝の言葉を発しましたが,それらがないときには、感謝の言葉を発した子どもは7%に過ぎませんでした。

  この研究は、年少の子どもたちの多くは、親などから手かがりやきっかけを与えられれば感謝の言葉を発しますが、単純とみられる場面でも自発的に感謝の言葉を述べるようになるのは、まだ難しいようです。

  感謝の言葉の発達について考慮するべき点があります。なかでも、文化差の存在です。例えば、インドにおいてはヒンズー語で感謝 (「dhanyavaad」)を述べることは稀であり、また子ども同士でその言葉を使うことはほとんどないといいます(Singh, 2015)。

感謝の概念の習得  

 大人や他の子どもたちとのやりとりのなかで、感謝の行動や概念が獲得されます。およそ、次のような年齢による変化が、これまでの研究によって報告されています。  

 児童期の初め 小学生の低学年までの子どもたちの感謝や負債感は、恩恵を与えてくれた人の意図や、費やした負担(コスト)が十分に考慮されない傾向があります。この感謝のあり方は、「何かをしてもらったら感謝をする」という、紋切り型の感謝を想像させます。それはまた、恩恵を与えてくれた相手の観点に立って考えることが不十分であることにもよると考えられます。     

 児童期の後期 小学校の高学年になると、恩恵を与えてくれた人の意図が、その人に感謝をするかどうかの重要な決定因の一つになります。つまり、恩恵を与えた人が、規則や義務、あるいは他者からの命令によるのではなく、相手のためにという自らの意思のもとに恩恵を施したとき、感謝を受けるに値すると考えるようになります。また、恩恵を与えた人が費やした犠牲(コスト)に応じて、感謝の程度は異なるべきだと考えるようになります。

 「高いコストを費やしてでも、自分のために自発的に恩恵を与えてくれる友だち」への感謝は強くなり、その関係をより強めていきます。感謝は、特定の関係を強めることに寄与します。 

アンカー 4

青年期 — 自立の課題と感謝の再構成 

(より詳しい文書(PDF)内藤、 2019)

 

  青年期の年齢については諸説ありますが、ここでは10代前半から20代後半を想定しています。青年期における典型的な感謝のあり方を描きます。

 青年期において、社会的世界は、認識の上でも活動の上でも拡大します。児童期で築かれた対人関係は、より広い社会的な観点からとらえられるようになります。そして、​あらためて社会における自己の位置づけ、アイデンティティが模索されます。このような青年期の特徴は、感謝のあり方にも影響を与えます。

・感謝の対象の再考-青年期の初め

 拡大された社会的な視野にもとづいて、それまで感謝の対象とされていた事柄や人々が、感謝の対象として相応しいものであるのか、あらためて問われ始めます。場合によっては、これまで感謝の対象であった親などの大人に対する不信や反抗を伴います。

再考の過程では、自分が感謝すべき対象に適切な対応をしてきたのかという点にも、反省の目が向けられるようになります。自分自身が、感謝をすべき対象に相応の役割を果たしていないと認識したときには、「すまなさ」の感情をもつ可能性が生まれます。

 青年における母親への感謝に関する池田(2006)の研究では、「すまなさ」を感じる自責的な感謝の高まる時期が示唆されています。つまり、これまで親から受けてきた恩恵に対して十分に答えていないという感覚は、「母親に対する感謝の自責的な心理状態」を生み出すとされます。また、青年期の発達について論じた西平(1990)は、若干時期的なずれはありますが、青年期の一部に該当する第二次心理的離乳期において、依存への反省という特徴を指摘しています。

 

・社会的な視野の下での感謝-青年期の後期

 その後、職業につくなど、いわゆる社会への参入をはたすとともに、 具体的な形で自立が求められるようになります。 

 他者からの恩恵は、その背景にある社会的状況や歴史的状況の因果関連のなかで理解されるようになります。例えば、親から受けた恩恵には、そのような親の行動を可能にした社会的、歴史的背景があることを認識し、より広範囲の対象が自分の幸福と関わりをもつと認識されるようになります。そして、「社会への恩返し」などより広い範囲への恩返しを考えることが可能になります。

 青年期において典型的と考えられる感謝の姿を描いてきました。ここでは、青年期における感謝の再考において、大人たちへの不信感と、「すまなさ」の感情の可能性を示しました。それらがどのような条件の下で生じ、どのような対応が必要なのかが、問われます。

 

文献(児童期と青年期) 

  • エリクソン、E.H., 仁科弥生訳(1977、1980). 『幼児期と社会1、2』、みすず書房.

  • Gleason, J. B., & Weintraub, S. (1976). The acquisition of routines in child language. Language in Society, 5(02), 129-136. 

  • Greif, E. B., & Gleason, J. B. (1980). Hi, thanks, and goodbye: More routine  information. Language in Society, 9(02), 159-166.

  • 池田幸恭(2006).「青年期における母親に対する感謝の心理状態の分析」『教育心理学研究』54巻 487‒497頁.

  • Naito, T. and Washizu, N. (2019). Gratitude in life-span development: An overview of comparative studies between different age groups. The Journal of Behavioral Science, 14, 80-93.

  • 内藤俊史(2019). 青年期における心理的自立―感謝感情のあり方を通して―.『野間教育研究所紀要』、第 61 集青年の自立と教育文化、238-268.

  • 西平直喜(1990).『成人になること—生育史心理学から』東京大学出版 

  •   Singh, D. (2015). I've never thanked my parents for anything. The Atlantic, Jun 8. http://www.theatlantic.com/international/archive/2015/06/thank-you-cultureindia-america/395069/  

アンカー 5

   成人期・高齢期―社会・世界と感謝 

  

 私たちは、高齢期の方々のもつ感謝について検討を進めています。現在、いくつかの論文等を作成しました。

アンカー 10

参考 ―年齢とともに変わる感謝の歌

 年齢を重ねていくとともに、感謝のあり方は変わっていきます。 それぞれの年齢層を対象としていると思われる感謝の歌(日本語)で、アクセス数の多い歌をリストしました。 

    それらの歌詞をみると、感謝が、それぞれの年齢で大切にされていることがわかります。しかし、それがどのような意味で大切なのかは、年齢によって異なるようです。

注意 音声が出ます。広告が入ることがあります。

 

「ありがとう」歌 伊藤碧依、作詞・作曲小林章悟

  卒園式や卒業式で歌われることがあると聞きます。子どもたちにこのような感謝の心が育って欲しいという願いのこもった歌。

「ありがとう」歌 いきものがかり、作詞・作曲水野良樹   これから共に生きて、幸せを分かち合う人に対する感謝の歌。2010年度上半期のNHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』の主題歌でした。

「ありがとうの唄」歌・作詞・作曲𠮷幾三

 (約1分50秒後に歌が始まります)  年齢も少し高くなって、人生を振り返りながら、これまで出会った人、出会ったこと・ものに対して感謝をしつつ人生を終わらせたらと願う歌。

「感謝」歌 坂崎幸之助、作詞北山修、作曲加藤和彦

 (約60秒後に歌が始まります) 亡くなる人の立場からの感謝の歌です。

アンカー 7

このセクションの終了

 ​.

 ​.

bottom of page